小村雪岱随筆集
「正直な話、私は別に苦心して描いたものもなければ、
また今までに格別に苦心した経験もないのである。
そんなわけで、一事が万事、
自分は甚だつまらない人間だと常に考へている。」
新編雑感で小村雪岱はそう述べています。
「鏡花先生」との出会い、
舞台「白糸の滝」を「面白く拝見」する一方
映画版を見落としたのは「甚だ残念」、と語り、
30年代後半、
「洋画の良いところに敬服して其の尺度でものを見る心構へが、
日本の作品の良い所を見ぬようにさせは致しませんでしょうか」
と当時の映画の風潮に警鐘を鳴らし、
「併し私は日本の俳優の持つ、幽韻とでも申しませうか、
余韻と言いますか、洋画に出て居ない芸の味が
あると思います」と語ります。
「狂恋の女師匠」や「おせん」のような今は見られぬ作品のことから
「春琴抄」のセット、衣装へ取り組む意気込み、
と共に、奈良や「たけくらべ」の街を歩き、仏像収集を唯一の
趣味と語りながら、
尽きせぬ鏡花との関係、その装丁の術、思想を綴っています。